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名古屋地方裁判所 昭和40年(行ウ)46号 判決

愛知県海部郡甚目寺町大字下萱津字替地一〇九〇番地

原告

株式会社オクダ

右代表者代表取締役

奥田正男

右訴訟代理人弁護士

笹岡龍太郎

名古屋市瑞穗区瑞穗町字藤塚

被告

昭和税務署長

水谷信之

右指定代理人

伊藤好之

中村巽

森茂伸

鈴木孝

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

(原告)

「一、名古屋西税務署長が昭和三三年四月一日から同三四年三月三一日までと同年四月一日から同三五年三月三一日までの、名古屋中村税務署長が同年四月一日から同三六年三月三一日までの原告各事業年度(以下、単に昭和三三年度、同三四年度、同三五年度という)の法人税につき、それぞれ別表(一)記載のとおりなした各更正処分(ただし、同三三、三四年度については審査裁決による一部取消後のもの)のうち、別表(二)記載の各所得金額・法人税額をこえる部分を取消す。二、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

(被告)

主文同旨の判決。

第二、当事者の主張

一、原告の本件各事業年度における法人税にかかる課税経緯は別表(三)記載のとおりである。なお、確定申告・再調査請求は名古屋西税務署長に対してなしたもの(ただし、昭和三三年度の確定申告は対津島税務署長)、更正処分・再調査決定は名古屋西税務署長がなしたもの(ただし、同三五年度の同三九年一二月二三日付更正処分は名古屋中村税務署長)、審査請求は名古屋国税局長に対してなし、同局長が審査裁決をなしたものである。

二、しかし、本件各更正処分(ただし、昭和三三、三四年度については審査裁決による一部取消後のもの、以下同じ)中、別表(二)記載の各年度所得金額・法人税額をこえる部分は違法であるから、右部分は取消されるべきである。

三、本件各更正処分をした名古屋西税務署長(昭和三三、三四年度につき)および名古屋中村税務署長(同三五年度につき)の原告に対する国税賦課徴収権限は、同四四年一二月一五日原告の本店を原告肩書地に移転したことに伴い被告が承継した。

(請求原因に対する認否)

請求原因一および同三本店移転の事実を認める。

(被告の主張)

一、原告は建築用金物の販売を目的とする株式会社である。

二、本件各更正処分における所得金額の内訳は次のとおりである。

1  昭和三三年度分所得金額((一)+(二)) 一、四八八、七八六円

(一) 原告申告所得金額 五九四、三九八円

(二) 加算したもの

仕入否認 八九四、三八八円

2  昭和三四年度分所得金額((一)+(二)-(三)) 三、九七四、九七六円

(一) 原告申告所得金額 四三〇、六四八円

(二) 加算したもの 合計三、六四三、五三八円

(1) 棚卸評価減否認 一〇三、九五〇円

(2) 減価償却超過 一〇八、五四〇円

(3) 買掛金過大 二二一、〇六八円

(4) 仕入否認 三、〇九九、三〇七円

(三) 減算したもの

未納事業税 九九、二一〇円

3  昭和三五年度分所得金額((一)+(二)-(三)) 七、二〇五、六九〇円

(一) 原告申告所得金額 二、〇七三、三四九円

(二) 加算したもの 合計五、七一〇、〇八九円

(1) 減価償却超過 八〇、四四二円

(2) 買掛金否認 九九〇、二二九円

(3) 売掛金もれ 一、二八一、四六五円

(4) 在庫計上もれ 二六三、八五五円

(5) 仕入否認 三、〇九四、〇九八円

(三) 減算したもの 合計五七七、七四八円

(1) 前記否認買掛金繰入 二二一、〇六八円

(2) 未納事業税 三五六、六八〇円

三、右の仕入および買掛金否認の根拠は次のとおりである。

1  本件各事業年度の仕入および買掛金否認の内訳は別表(四)(ただし、「販売先」欄を除く)記載のとおりである。

2  原告主張の別表(四)記載の各取引先は原告主張の所在地に実在せず、原告自身各取引先の正確な所在地・連絡方法などを明確にできない。すなわち、

(一) 右各取引先の実在については、原処分段階での実地調査、審査段階での郵便による調査によっても確認できなかった。

(二) 各取引先の所在を明確にするよう原処分および審査の段階で再三原告に対し慫慂したが、原告は明らかにできなかった。

(三) 各取引先について検討すると、その取引先は大阪市内・名古屋市内に存在するとされ、その取引形態は、いずれも大量多額の鉄材仕入で、その代金決済は仕入後相当期間を経過してから行なわれていることからみて、取引当事者間の信頼関係を基礎としたいわゆる掛取引と認められる。このような掛取引を始めるに当っては、売買当事者双方がそれぞれ相手方の信用度について調査・確認し合っているはずであり、原告が真実掛取引をしているとすれば相手の存在すら明らかでないことはありえない。

3  原告が支払った各取引代金は一件が現金払の外はすべて原告振出の小切手で支払われているところ、これらの小切手はすべて原告の取引銀行である東海銀行則武支店、住友銀行名古屋駅前支店、第一銀行名古屋駅前支店のいずれかで現金化されている。ところで、一般に商人は自己の取引銀行を通して受取小切手を取立または交際するのが通例であるが、本件では大阪市内に存在するとされる取引先は、右のごとくそれぞれ受取小切手をすべてわざわざ名古屋市内所在の原告取引銀行で現金化しており、極めて不自然で原告の作為がうかがわれる。

4  右各取引の支払小切手総計二二枚の裏書を検討すると、取引先と各裏書人との関係は別表(四)記載のとおりであるが、各裏書人の姓は中村、鈴木、加藤、伊藤が半数以上を占め、その名前をみると、義男-良雄、政男-政夫、忠夫-忠男など単に文字を変えたにすぎないと思われる酷似した名前を使用している。これは使用する認印の便宜を考慮し入手しやすい姓を用いて架空人名義の裏書をしたことを物語るものである。

5  以上の各事実を総合勘案すれば、原告の主張する各取引は架空のもので、右支払小切手の振出は原告が税務対策上仕入を偽装するため適宜行なったものと考えられるので、右各取引を否認した。

6  被告が調査したところ訴外森山商店に対する昭和三四年度における買掛金について二二一、〇六八円が過大に計上されていたのでその損金算入を否認した。なお、同年度における右訴外商店からの仕入は前記仕入否認と同様の理由により架空仕入であるが、その仕入決済が昭和三五年度において行なわれているので同三四年度においては買掛金過大として否認した。

また、原告は同三五年度中に訴外井上商店より商品を仕入れたとし、期末において未決済のため買掛金として九九〇、二二九円を計上するが、右仕入事実の確証が得られないのでその損金算入を否認した。

四、以上のとおり、法人所得計算上損金に計算した原告の仕入および買掛金を否認してなした被告の本件各更正処分は適法である。

(被告の主張に対する認否および原告の主張)

一、被告の主張一、同二の内訳のうち仕入否認・買掛金過大および買掛金否認を除く各項目、同三1の内訳は各認めるが、同二の内訳のうち仕入否認・買掛金過大および買掛金否認ならびに同三2(一)(三)、3ないし6を否認し、同三2(二)は知らない。

二、被告が架空取引(仕入)であるとして否認する別表(四)の各取引は同表記載のとおり実際に行なわれたものである。

被告は本件各取引を否認し、これにより所得金額が増額したものとして本件各更正処分をしたが、これは所得を生ずる取引の基本的数量を無視したものである。すなわち、本件各事業年度における原告の売上数量、仕入数量および仕入否認数量を対比すれば別表(五)記載のとおりとなり、仕入数量から仕入否認分を差し引いて計算するといずれの品目についても販売数量が仕入に比し過剰になる。また、架空仕入とされた分の販売先は別表(四)「販売先」欄記載のとおりであり、その販売金額は被告もすべて認めているから、右仕入分を否認すると仕入なしの販売即ち「空売り」になる。従って、このことはそもそも右仕入を架空として否認することが不当であることを示すものである。

なお、被告は、「空売り」というためには各商品の在庫が明確になっていることなどの要件が必要であると主張するが、本件各事業年度当時は鉄材の品不足で、苦心して仕入れた鉄線・釘を一日でも手元に置いておくことはできない状況であったから、被告のいう要件は考慮しなくてもよい。

また、審査庁が原処分庁のした認定賞与処分を取消したのは、これに見合う金額が正当に社外流出したものと認めたもので、これは結局同庁が本件仕入を架空仕入でないと認定したものといえる。

さらに、昭和三五年度において訴外森山商店からの仕入を否認しながら、同三三年度の同商店からの仕入をそのまま認めているのは首尾一貫しないもので、右仕入否認が理由のないことを示すものである。

(被告の反論)

一、原告は仕入を否認すると売上はそれだけ少なくなるはずであり、売上額を原告申告どおりに認めるならば仕入否認分に対応する売上分は「空売り」になると主張するが、右主張は各年度の期首、期中、期末を通じて日々の在庫商品の残高が明確であること、その商品が品目別に管理可能であること、個々の商品につき商品出納帳等による出納管理がなされていることなどの前提要件をみたすときはじめて是認しうることであって、本件のように在庫が明確でなく、取扱商品が個別管理に適さず(鉄線・丸釘等の各品目について入・出荷日を明示することは不可能である。)商品の出納管理がなされていない場合においては、架空仕入として仕入が否認されたからといって直ちに売上に影響を及ぼし「空売り」になるとはいえない。また、原告は別表(五)における各販売数量が各仕入差引数量を上回ることを「空売り」の論拠とするが、同表昭和三三年度の#8鈍鉄線、丸釘および同三五年度の丸釘においては否認数量と関係なく既に原告のいう「空売り」となっており、このことからみても原告の「空売り」の主張は失当である。ちなみに、別表(六)記載の被告主張の数量を基に各期首在庫数量と各仕入数量の合計から各仕入否認分を減じてもその数量は各売上数量を下回らず、この点においても右「空売り」の主張は失当である。

なお、原告は架空(否認)仕入分の販売金額は被告もすべて認めているかのごとく主張するが、本件各仕入否認は仕入取引が架空であるとの理由によるもので、原告主張の別表(四)「販売先」欄記載の販売先に対する販売金額を認めたことはなく、前述のとおり本件仕入否認対象商品は個別管理が不可能であるから、たまたま否認仕入年月日直後に同品目・同種類の商品の販売があるからといって仕入否認商品即販売とはならない。

二、さらに原告は、審査庁が、架空仕入否認により発生した利益は賞与として処分されたと認定した原処分を取消したことをもって、同庁が本件架空仕入はなかったものと認めたものであると主張するが、同庁は右利益処分が原告代表者に対する賞与とは認定しがたいとしただけで、その前提たる架空仕入まで否定したものではない。即ち、右利益処分が賞与であるとすると原告代表者の財産が何らかの形で増加していなければならないが、その確認把握ができなかったため賞与として認定しなかったのである。

三、原告は、被告の仕入否認は首尾一貫しないと主張するが、昭和三五年度における訴外森山商店からの仕入を否認したのは、仕入先からの請求書・領収書等がなく、決済小切手の裏書・印鑑が否認された他商店からの仕入の決済小切手のそれと同様であるなど、調査により右仕入の事実が認められなかったからであり、同三三年度の仕入を否認しなかったのは調査の結果右訴外商店を仮名とする取引の事実が確認されたからである。

第三、 証拠

(原告)

甲第一号証、同第二号証の一ないし六を提出し、原告代表者本人尋問の結果を援用し、乙第一七号証の一ないし六および同第一八、第一九号証の各一ないし九の成立を認め、その余の乙各号証の成立は不知である。

(被告)

乙第一ないし第九号証の各一、二、同第一〇ないし第一六号証、同第一七号証の一ないし六、同第一八、第一九号証の各一ないし九を提出し、証人小松勇、同夏目理一の各証言を援用し、甲各号証の成立は不知である。

理由

一、原告が建築用金物の販売を目的とする株式会社であり、原告主張の経緯で本件各更正処分および審査裁決がなされたことは当事者間争いがない。

原告の本件各事業年度分法人所得金額の算出にあたり、原告のなした各年度申告所得額について、法人所得計算上損金に算入すべきでないとして被告が否認した昭和三三年度分仕入金額八九四、三八八円、同三四年度分買掛金二二一、〇六八円、仕入金額三、〇九九、三〇七円および同三五年度分買掛金九九〇、二二九円、仕入金額三、〇九四、〇九八円を除きその余の被告主張事実はいずれ当事者間に争いがない。

ところで、右各金額の内訳が別表(四)記載のとおりであるところ、原告はこれを損金に算入すべきであるとして争うので検討する。

二、証人夏目理一の証言により真正に成立したものと認めることができる乙第一ないし乙第九号証の各一、二、同第一〇ないし第一二号証および同証人の証言によれば、本件審査の段階において昭和三七年八月七日名古屋国税局協議団本部長が、別表(四)「取引先」欄記載の中村商店外八商店および南口忠男に対し同記載の各住所宛に、原告に対する本件各事業年度売上状況につき郵便により照会したところ、同月一〇日ころ森山商店を除くその余の前記各商店および右南口については受取人が宛て所に尋ね当らないとして所轄郵便局より返送されたこと、右森山商店(名古屋市西区那古野町二)宛照会は付近の同町三丁目七二所在株式会社森山商会へ誤配され、同商会は原告とは取引がない旨回答したこと、同月一三日前記本部長が大阪国税局協議団本部長に対し、前記各商店のうち鈴木、森山両商店を除く大阪市に存在するとされる七商店の所在につき調査嘱託をしたところ、同本部長は実地調査、区役所等における調査の結果、川本商店が前記「取引先」欄記載の同市東区上本町二でなく同市南区東平野町二-二〇に実在する外は昭和三三年当時より他の六商店は実在しない旨回答したことをそれぞれ認めることができる。

なお、前掲乙第一二号証によれば、右川本商店と原告との取引は同三五年三月七日鉄線六トン三〇七、一一〇円(後日返品)の一回のみで、別表(四)6・7の取引はなかったことを認めることができる。また、一般に商人は自己の取引銀行を通して受取小切手を取り立てるのが通例であるところ、原告主張の各取引の代金は一件が現金払されている外はすべて原告振出の小切手で支払われ、しかも右支払小切手は別表(四)「決済方法」欄記載のとおり、すべて原告の取引銀行である訴外東海銀行則武支店、同住友銀行名古屋駅前支店、同第一銀行名古屋駅前支店等の窓口で取立されていることは格別当事者間に争いがないのであるから、原告主張の大阪市内に居住するという取引先は受取小切手をすべてわざわざ名古屋市所在の前記原告取引銀行で取立てられていることになり、極めて不自然である。

さらに、証人小松勇の証言により真正に成立したものと認めることができる乙第一三、第一四号証および同証人の証言によれば別表(四)「決済方法」欄記載の各支払小切手中、同表13・19の各支払小切手の取立名義人の筆跡、同表5・10・17・18・22の各支払小切手の取立名義人の筆跡、同表21・23の各支払小切手の取立名義人の筆跡がそれぞれ同一であること、各取立名義人は中村・鈴木・加藤・伊藤等のありふれた姓が大部分であり、その名前もまた中村義男-大竹義男、忠男-忠夫、政男-政夫、誠-誠一、和義-正義等同一名前かまたは類似のものが多数であること、前記13の小切手の取立名義人の加藤なる印影は同23・24の小切手のそれと同一であり、右中村・鈴木・伊藤の場合と同様、いわゆる三文判による印影であることをそれぞれ認めることができ、右認定事実によれば別表(四)4・7・9・14の取引以外の各支払小切手は架空人名義を以て取立がなされたことが容易に推認できる。

以上の各認定事実、特に、別表(四)記載の各取引先が実在しない架空の取引先であり(但し、前記川本商店を除く)、しかも大阪市内の取引先に対する取引代金決済のため原告が振出したとする小切手がすべて名古屋市内の原告取引銀行において仮名で取立てられている事実に徴すると、同表記載の各取引はすべて原告の作為にかかる架空のものといわざるを得ない。なお同表6・7の川本商店との取引が存在しない架空のものであることは前記認定のとおりである。

もっとも、原告代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと認めることができる甲第一号証(仕入と題するノートブック)、同第二号証の一ないし六(売上と題するノートブック)に右本人尋問の結果を総合すれば、右各ノートは原告が本件仕入否認分の仕入・売上数量を仕入帳・売上帳に基づき月別に整理して作成したもので、一部本件において否認された取引先および数量が記載されているが、後記のとおり右甲各号証の記載内容に信を措くことはできないし、前記認定の事実に照らし、右供述も措信し難い。

また、原告代表者本人尋問の結果中、原告はトラックで運搬してくるブローカーから現物で買うことが多いので、取引先の住所等を知る必要はなかったと供述するが、原告が実際にあつたとする各取引は別表(四)「取引年月日」「取引金額」「決済年月日」欄記載のとおり大量かつ多額の鉄材仕入であり、その代金決済は取引後相当期間経過してから行なわれていることは格別当事者間に争いがないところ、かかる態様の取引は、当事者間の信頼関係を基礎としたいわゆる掛取引というべきであるから、相手方の住所または連絡方法すら知らないということは通常考えられないことであって、前記供述は措信できない。

三、 原告は、各係争事業年度における品目の仕入・仕入否認・販売各数量は別表(五)記載のとおりであり、右仕入数量から仕入否認数量を差し引くと各品目とも販売数量が差引仕入数量を超過し、また、架空仕入とされた分についての販売先は別表(四)「販売先」欄記載のとおりであるから、右仕入を否認すると右超過分ないし右販売分は仕入なしの販売即ち空売りになると主張する。原告主張の右各数量は前掲甲第一号証(仕入と題するノートブック)、同第二号証の一ないし六(売上と題するノートブック)に基づくものと考えられるところ、右各ノートは原告が本件仕入否認分の仕入・売上数量を仕入帳・売上帳に基づき月別に整理して作成したものであることは先に認定のとおりであるが、右各ノートには集計誤り等、例えば、昭和三三年度仕入につき、同第一号証一六枚目裏中央商事鈍鉄線#8計一五一、二九一瓩、同#10計二五一、九〇六瓩はそれぞれ一五八、九〇一・五瓩、二五九、三二五・五瓩、同号証一九枚目表梅鉢鋼業同#8計四八、九二三瓩は四八、九二二・七瓩の誤りであり、また、同号証二〇枚目裏森山商店の数量および昭和三五年度売上について甲第二号証の六の五枚目裏大林組の数量の右欄・左欄が重複計上されているなど、各所に誤りが散見されるのみならず、成立に争いのない乙第一七号証の一ないし六、同第一八、第一九号証の各一ないし九(各取引明細書)原告代表者本人尋問の結果によれば、本件審査請求時に原告から提出された各係争年度の各取引先別取引明細書であるが、これを前記各ノートブックと対比すると、数多くの相違点等、例えば梅鉢鋼業からの昭和三三年一二月一七日付鈍鉄線#8仕入数量に関し、乙第一七号証の二の二〇行目においては二、一七六・〇瓩と計上されているが、甲第一号証一九枚目表左欄三五行目においては二一七・六瓩となっていること、愛知淑徳学園への同年一〇月二五日付鈍鉄線#8売上数量に関し、乙第一七号証の三の一枚目一八行目においては四〇七・〇瓩と計上されているが、甲第二号証の一の三枚目裏右欄二九行目においては四、〇七〇・〇瓩となっていること、広瀬商店からの同三四年五月二七日付鈍鉄線#8仕入数量に関し、乙第一八号証の一の二行目においては二、四〇五・〇瓩と計上されているが、甲第一号証七枚目表左欄には計上されていないこと、竹中工務店松坂屋現場への同三五年八月一三日付、同三六年一月五日付鈍鉄線#8売上数量に関し、乙第一九号証の一の一枚目八月中・二枚目一月中には計上されていないが、甲第二号証の三の一〇枚目表左欄一九行目・同裏左欄二九行目にそれぞれ計上されていること、大林組への同三五年八月一〇日付鈍鉄線#8売上数量に関し、乙第一九号証の四の三枚目一二行目においては一・〇瓩と計上されているが、甲第二号証の六の六枚目表右欄八月中には計上されていないことなどがあって右各ノートブックの記載内容自体たやすく措信できない。しかのみならず、そもそも原告主張の販売過剰ないし空売りをいうためには各事業年度期首・期末の各品目別商品の在庫数量が明確でなければならないところ、右在庫数量の主張立証がなく、却って、原告代表者本人尋問の結果によれば、商品の出し入れおよび残高については記録しなかったことを認めることができるので、原告の右主張を認めることはできない。なお、原告は別表(五)記載の各販売数量が各仕入差引数量を上回ることを「空売り」の論拠とするが、同表昭和三三年度の#8鈍鉄線、丸釘および同三五年度の丸釘については否認数量を差し引くまでもなく既に販売数量が仕入数量を上回っているのであって、この点からも右「空売り」の主張は失当である。

もっとも、証人小松勇の証言によると、同人が名古屋西税務署職員として再調査の際、原告提示の売上納品書・仕入納品書に基づき商品の受け払い(出納)をしたところ、商品が存在しないのに売ったという結果が出たことを認めることができるが、このことは、前記認定の原告の業態が現物買いであることと併せ考えると、原告の仕入売上に関する主張が正当でないことを示すもので、在庫関係が明確でない以上右結果は、何ら原告主張の本件仕入否認による空売りを根拠づけるものではない。

また、原告は架空仕入とされた分の販売先は別表(四)「販売先」欄記載のとおりであり、被告もその販売金額を認めているから、右仕入を否認すると右販売は空売りになる旨主張するが、被告が右販売金額を認めた事実はないし、右架空仕入分が右各販売先に対し販売されたことを認めさせるにたりる適切な証拠はないから右主張も是認できない。

なお、原告は、係争年度当時は鉄材の品不足で仕入れた鉄材を手許に置くことはできず、在庫を考える必要がない旨主張し、原告代表者本人尋問の結果は右主張に沿うようであるけれども、原告がその都度大量の取引を行なっていることは当事者間に格別争いのないところであるから、およそ在庫が生ずることがないとは考えられず、原告の右主張は採ることができない。

さらに、原告は審査庁が原処分庁の認定賞与処分を取消したのは、本件架空仕入がなかったと認めたものであると主張し、審査庁が右処分を取消したことは格別当事者間に争いがないけれども、証人夏目理一の証言によれば、右取消しは単に架空仕入否認により発生した利益の処分につき賞与とは認定し難いとしてなされたにすぎないことがうかがわれるから、右取消しをもって本件架空仕入がなかったことの証左とはならず、右主張は理由がない。

また、原告は森山商店からの仕入につき、被告が昭和三三年度分を是認し、同三五年分を否認したのは首尾一貫しないと主張するが、同三五年分が否認された理由は前記認定のとおり支払小切手が架空名義で取立てられたことにより仕入が架空とみなされたからであり、他方、証人夏目理一の証言により真正に成立したものと認めることができる乙第一五、第一六号証および同証人の証言によれば、同三五年六月五日から原告と森山商店名でなされた林工業株式会社との間の取引があり、その支払小切手は同会社社員森山進により取立てられた事実を把握したので、被告は原告の同三三年度の仕入を是認したものと認めることができるから、原告の右非難は当らない。

なお、昭和三四年度買掛金過大分については、重ねて翌三五年度において仕入否認されたので、同年度において繰入減算されているのであって、このことは格別当事者間に争いがないことである。

四、以上の次第であるから、本件各年度原告法人所得金額算定にあたり、先に認定したとおり架空にかかる別表(四)記載の本件仕入・買掛金額につき被告がその損金算入を否認したことは正当であるから、右事実に基づきなされた本件各更正処分は適法である。

五、よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないので、これを棄却し、訴訟費用の負担については、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田義光 裁判官 鏑木重明 裁判官 樋口直)

別表(一)

〈省略〉

別表(二)

〈省略〉

別表(三)((注) 〈所〉 は所得金額、〈税〉は法人税額)

〈省略〉

〈省略〉

別表(四)

1. 昭和三三年度

仕入否認(八九四、三八八円)

〈省略〉

2. 昭和三四年度

イ、仕入否認(三、〇九九、三〇七円)

〈省略〉

〈省略〉

ロ、買掛金過大(二二一、〇六八円)

〈省略〉

3. 昭和三五年度

イ、仕入否認(三、〇九四、九八円)

〈省略〉

〈省略〉

(注)この金額はすでに前年度に買掛金否認されているので、当年度で繰入減算してある。

ロ、買掛金否認(九九〇、二二九円)

〈省略〉

別表(五)

1. 昭和三三年度 (単位-鈍鉄線はキログラム、丸釘は樽)

〈省略〉

2. 昭和三四年度

〈省略〉

3. 昭和三五年度

〈省略〉

別表(六)

(単位-鈍鉄線はキログラム、丸釘は樽)

〈省略〉

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